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< 第十二回 >
大人の発音障害「側音化構音」

  「発音障害」という言葉から、 多くの方はお子さんにみられる発音障害と想像されるのではないでしょうか。大人になってから病気のため、たとえば脳卒中の後遺症や口腔癌などの手術の後も発音が障害されることがあります。また、そのような病気がなくても発音する時の「くせ」のために発音が障害されることもあります。今回は、最近当科への相談件数が多い「側音化構音(そくおんかこうおん)」について、「どのような発音障害なのか?」「治療法は?」についてご説明します。

1.当科を訪ねるきっかけは?
「滑舌が悪いといわれる。」→ 一番多いきっかけです!
「いの段の音がいいにくい。」
「俳優とか、舞台に立つ仕事をしたいので、滑舌をなおしたい。」
「歯並びが悪いが、そのために発音が悪いのかみてほしい。」
「歯科の先生から、発音の専門家にみてもらうように紹介された。」

2.どのような発音障害なのか?
【言いにくい音】
   「し、ち、じ、」「き、ぎ」、など五十音表の「い」の段が言いにくい。
【誤り方】
   「し」と言っているのに、相手には「ひ」に近く聞こえます。
   「ち」と言っているのに、相手には「き」に近く聞こえます。
   「じ」と言っているのに、相手には「ぎ」に近く聞こえます。
   「り」と言っているのに、相手には「ぎ」に近く聞こえます。
   「き」は「き」に近く聞こえますが、こもったような、口の奥で唾液があわ立つようなグジュグジュした雑音も同時に聞こえます。
【発音しているときの口の動き】
  正常な発音では、舌の先を使って口の真ん中から息を出します。例えば「静かにしてください」というサインで中指を一本口の前に立てて「シーーー」というと周りの人が静かになりますね。その時、中指には口の真ん中から息が流れ出るので息を感じることができます。
  側音化構音の方はどうでしょうか。同じように「シーーー」というと、舌を上あごに押しつけて、わずかに下あごをずらし、その方向と反対の口角(口の角)を横に引き、奥歯の奥の方から口角に向かって息を出します。そのため、息は口の真ん中からではなく、口 の角から流れ出てしまいます。舌の動きや下あごの動き、口からの息の流れが正常な方と若干違うのですが、その程度は人によって様々であり、専門家による検査を受けることをお勧めします。

3.治療法は?
  側音化構音は、いわゆる「赤ちゃん言葉」とは異なり、年齢が高くなっても自然に治ることが少ないといわれています。発音しているときの舌の使い方が正常な方とは異なっているので、発音の専門家(言語聴覚士など)による専門的な評価と指導が必要になります。
  長年、舌の先端や舌の縁を使わなかったため、舌の力が弱いのが特徴です。はじめに発音に必要な舌の力をつける「舌の訓練」を行い、その後「発音訓練」を行います。またお子さんと異なり、誤った発音を何年も続けているため、正しい音と誤った音との聞き分けも難しいことが多く、誤りに自分で気がつくという「耳の訓練」も重要です。
  訓練は、一般的には通常40分から60分程度の個人訓練で、1週間1回位、およそ1〜2年程度かかります。病院で訓練を行う場合には、健康保険が適応されます。
訓練内容は簡単なものですが、頭で考えた通りに舌や口を動かそうと思ってもなかなかコントロールできず、無意識で正しく発音できるようになるためには、どうしても時間がかかります。しかし、一度学んだ正しい発音は、訓練を継続することにより、忘れてしまうことはありません。こつこつと地道な努力が必要だと思います。

【舌の訓練】
 舌の先や周りの筋力が弱いのが特徴です。舌を前に出した状態で保つことが難しく、舌に力が入って棒のように細長くなったり、舌の先がまるまってしまったりします。
 そこで舌の先(舌尖)や舌の周り(舌の側縁部)を鍛えて、舌の中央部の緊張を取り除くようにします。この段階は、「舌の脱力」「舌のお皿をつくる」といわれているものです。
 舌の訓練は、とても単純課題ですが、実際に行ってみるとなかなか難しく、無意識にできるまでにはかなり時間がかかります。専門家の指導を受けることをおすすめします。

【発音訓練】
  舌の訓練で、舌の先や周りの筋力がついてきたら、発音練習に入ります。舌を前に出した状態で、母音「い」を指導します。舌の訓練と思って行うと舌は正しい形になりますが、「い」を発音しようとすると以前の舌の状態に戻ってしまうことが多くみられます。正しい舌の形で発音できるまでには、時間がかかりますので、あせらず訓練することが大切です。
  「い」の発音が安定してきたら、「し」の発音を指導します。しかし、「い」の時に正しい舌の形で発音できても、「し」で息をだそうとするとまた以前の状態に戻ってしまうことが多くみられます。「舌の癖の除去」→「正しい舌の形の習得」→「正しい息づかいの習得」→「正しい発音の習得」というように、スモールステップで、少しずつ進めてゆきます。「い」「し」「き」などの音が正しく言えるようになるには時間がかかりますが、「し」が言えるようになると発音の方法が似ている「ち」「じ」は比較的短期間でいえるようになります。鍵となる音の訓練をしっかり学ぶことが習得の近道になります。

【耳の訓練】
  大人の発音障害の一番難しいところは、「耳だけでは自分の音の誤りがわからない。」という部分です。誤った発音を長年続けた結果、先生の「正しい発音」を聞いても、「自分の耳では正しい発音ときこえない」という現象が起こります。そこで、「正しい発音」と「側音化構音」とを比較し、舌、下顎、口角などの口の動きで、どこがどのように違っているかを観察し、「口の動きの違い」から、「音の違い」を推測できるように訓練します。

4.まとめ
  側音化構音は、専門的には原因となる病気が認められない「機能性構音障害」の中の「特異な構音操作の誤り」と分類される「音の誤り」です。発音時の舌運動が、正常な舌運動と異なるために、「舌の訓練」の部分が重要となり、訓練には専門的な知識が必要となります。
 お子さんの場合は、就学前は療育・発達センターや子どもの治療を行っている病院などに相談窓口があります。また就学後は小学校に設置されていることばの教室(通級指導教室など)に相談されると指導が受けられます。しかし、大人の場合は、病院で指導を行っている施設が少なく、毎日悩みをかかえながら生活されている方が多いのが現状です。また、「側音化構音」に対する正しい知識が不足しており、一般の方からの理解がなかなか得られないことも問題です。口腔リハビリテーション科として、今後とも「側音化構音」との取り組みを続けていくつもりです。何か気になることがあれば、是非ご相談ください。

                
                           言語聴覚士 山下夕香里

 
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