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< 第七回 >
嚥下障害の検査法1―頸部聴診法(その2)

5. 頸部聴診による判定
長い嚥下音や弱い嚥下音、複数回の嚥下音が聴取される場合には舌による送り込みの障害、咽頭収縮(pharyngeal contraction)の減弱、喉頭挙上障害、食道入口部の弛緩障害などが疑われます。また嚥下時にいわゆる泡立ち音(bubbling sound)やむせに伴う喀出音が聴取された場合には誤嚥が強く疑われます。また、嚥下音の合間に呼吸音が聴取される場合には呼吸停止ー嚥下ー呼吸再開という呼吸・嚥下パターンが失調していたり、喉頭侵入や誤嚥が生じている可能性があります(表1)。

表1 頸部聴診による判定(嚥下音)
−嚥下音ー
・長い嚥下音や弱い嚥下音,繰り返しの嚥下音

舌による送り込みの障害,咽頭収縮の減弱,
喉頭挙上障害,食道入口部の弛緩障害
・泡立ち音(bubbling sound),むせに伴う喀出音

誤嚥
・嚥下音の合間の呼吸音

呼吸・嚥下パターンの失調,誤嚥・喉頭侵入の可能性

嚥下直後の呼吸音(呼気音)については”濁った”湿性音(wet sound)、嗽音(gargling sound)、あるいは液体の振動音(嚥下造影所見では気道内に貯留あるいは付着した液体が呼気流により振動する現象が確認される)が聴取される場合には誤嚥や喉頭侵入あるいは咽頭部における液体の貯留が疑われます。またむせに伴う喀出音や喘鳴様呼吸音が聴取される場合は誤嚥が疑われます(表2)。いずれにしても嚥下後の呼吸音(呼気音)を聴取する際には嚥下前に貯留物を排出させた状態で確認した呼吸音(呼気音)と比較することが重要です。

表2 頸部聴診による判定(呼吸(呼気)音)
−呼吸音(呼気音)ー
・湿性音(wet sound),嗽音(gargling sound)
 あるいは液体の振動音


咽頭部の貯留,喉頭侵入,あるいは誤嚥
・むせに伴う喀出音,喘鳴様呼吸音

誤嚥
液体の振動音:嚥下造影所見では気道内に貯留あるいは付着した液体が呼気流により振動する現象が確認される


6. 聴覚的診断の判定精度と聴覚心理因子

頸部聴診法による聴覚的診断の判定精度を検討するために嚥下造影画像と同時に記録した嚥下音と呼気音からなる44サンプルを編集し(表3)、画像は示さずにサンプル音のみを歯科医師、言語聴覚士、看護師からなる医療従事者6名(4名は頸部聴診の経験なし)に呈示しました。サンプルを嚥下障害あり群(喉頭蓋谷・下咽頭部の貯留、喉頭侵入あるいは誤嚥の画像所見がみられた群)と嚥下障害なし群(前記の画像所見はみられない群)の2群に聴覚的に判別させたところ造影画像所見との一致率は80%以上の高い値が示されました(表4)。また嚥下障害判定に寄与する聴覚心理因子の検討を行ったところ、嚥下直後の呼気音については音質、安定性、強さ、量、速さに関連する因子のうち、音質、安定性に関する因子が嚥下障害の判定に有用であることが明らかとなりました。

表3 嚥下造影画像所見による音響サンプルの内訳
判定 嚥下造影画像所見 サンプル
嚥下障害(−)群 正常嚥下 4
許容嚥下※ 2
嚥下障害(+)群 嚥下障害(+)群 梨状陥凹部,喉頭蓋谷への貯留 1
喉頭侵入 10
気管内侵入(誤嚥),むせ有 16
気管内侵入(誤嚥),むせ無 11
  44
※貯留,喉頭侵入,誤嚥の所見はないが正常とはいえないもの.たとえば送り込みの減弱など.

表4 聴覚的判定による嚥下障害の有無についての判別率(%)
  検者1 検者2 検者3 検者4 検者5 検者6 平均
一回目 88.6 81.8 79.5 72.7 81.8 86.4 81.8
二回目 93.2 79.5 84.1 68.2 88.6 97.7 85.2
平均 90.9 80.7 81.8 70.5 85.2 92.1 83.5


7.嚥下音・呼気音の音響特性による判定精度

嚥下音(159音)と呼気音(194音)の音響特性による嚥下障害の判定とこれらの音響信号と同時に記録した嚥下造影画像所見との関連を検討しました(表5)。健常・許容嚥下時では嚥下障害(誤嚥、喉頭流入あるいは貯留)時に比較し、嚥下音の持続時間は短く、呼気音については0-250Hzの周波数帯域のレベルが小さい傾向が確認されました(図6,7)。嚥下音の持続時間と呼気音の250Hz以下帯域の平均音圧レベルについて臨界値(持続時間:0.79秒、平均音圧レベル:23.0 dB)を設定して、音響分析より得られた値が臨界値以上の場合を嚥下障害ありと判定し、この判定と造影画像所見による判定との一致率(Percent agreement)を求めたところ判定一致率はいずれも77.3%と高いことが示されました(表8,9)。

表5 嚥下造影画像所見による対象分析音の群分け
嚥下造影画像所見 対象音数
嚥下音 呼気音
嚥下障害
(+)
誤嚥 62音 78音
喉頭侵入 24音 26音
貯留 5音 10音
嚥下障害
(−)
上記の所見のないもの
(遅延例を含む)
68音 80音
159音 194音


図6 嚥下音の持続時間の比較


図7 呼気音の0〜250Hz帯域の平均レベルの差

表8 嚥下音の持続時間による判定とVF所見との
   判定一致率(%(数)) (臨海値:0.79秒)
感度 74.7 (65/87)
特異度 82.2 (37/45)
判定一致率 77.3 (102/132)

表9 呼気音の0〜250Hz帯域の補正音圧レベルによる判定
   とVF所見との一致率(%(数))(臨海値:23.0dB)
感度 78.2 (97/124)
特異度 82.2 (53/70)
判定一致率 77.3 (150/194)


おわりに

 頸部聴診法は障害を直視できる嚥下造影検査にとって代わる診断法ではありませんが、嚥下障害のスクリーニング法として高い利用価値があります。前述したように検査前に貯留物を排出させることに加え、聴診時に至近距離で喉頭運動など嚥下に随伴する動態を注意深く観察し、それらの情報と聴診音の診断を統合すれば診断精度はさらに高まると思われます。さらに今後の展開として、嚥下音と呼吸音の音響特性を評価することにより頸部聴診法を応用した嚥下障害の客観的評価法を開発されることが期待されます。



文献
1) 高橋浩二:頸部聴診法. 摂食・嚥下リハビリテーション 金子芳洋, 千野直一 監修,医歯薬出版, 東京, 171-175. 1998
2)高橋浩二、宇山理紗、平野 薫他:口腔癌術後機能障害の評価と治療ー評価:嚥下障害ー. 口腔腫瘍、 11(4): 326ー332, 1999.
3)高橋浩二:ビデオ版 頸部聴診による嚥下障害診断法 高橋浩二 企画・監修 医歯薬出版, 東京、2002
4)Takahashi K, Groher ME, Michi K: Methodology for Detecting Swallowing Sounds. Dysphagia 9:54-62, 1994
5)Takahashi K, Groher ME, Michi K: Symmetry and Reproducibility of Swallowing Sounds. Dysphagia 9:168-173, 1994
6)Takahashi K, Groher ME, Michi K, et al : Acoustic Characteristics of Swallowing Sounds. Minute 2nd Workshop on Cervical Auscultation of Feeding, 40-44, 1994
7)平野 薫,高橋浩二、宇山理紗他: 嚥下障害判定のための頸部聴診法の診断精度の検討. 口外誌、47(2):93-100, 2001
8)平野 薫,高橋浩二、宇山理紗他:頸部聴診法による嚥下時産生音の評価の指標に関する検討ー嚥下後の呼気音の聴覚的評価と嚥下透視所見および音響特性との関連についてー. 口科誌、 50(2):82-89, 2001
9)平野 薫,高橋浩二、道 健一他:頸部聴診法による嚥下障害の判定に関与する聴覚心理因子の検討.口科誌、 50(4):242-248, 2001
10) 宇山理紗、高橋浩二、道 健一他:嚥下音、呼気音の音響特性を利用した嚥下障害の客観的評価の試み。口科誌 46(2):147-156, 1997
11)高橋浩二、宇山理紗、平野 薫他: 頭頸部腫瘍患者の嚥下障害に対する頸部聴診法の判定精度の検討.頭頸部腫瘍、 27(1)198ー203, 2001


高橋 浩二
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