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昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科

local_library第15回 「舌小帯短縮症と発音障害」

1.舌小帯短縮症とは?

舌小帯とは、舌の裏側についているヒダ(ひも状になっている場合もあります)のことをいいます。このヒダが生まれつき短かったり、ヒダが舌の先端に近いところについていることがあり、このような状態を舌小帯短縮症といいます。舌を前に突き出すと、舌の先端にくびれができ、ハート型の舌になります。舌小帯短縮症にはいろいろな呼び方があり、舌強直症、舌小帯癒着症、舌癒着症などといわれることもあります。

舌小帯の短縮の程度は舌の先をどの程度あげられるかによって、軽度・中等度・重度に分けられます。簡単な判定方法をご紹介します。「お口を大きく開け、舌の先を上あごにつけてください」と言います。お口の大きさ(たての長さ)の1/2以上あげられたら、「軽度」です。1/2以下しかあがらない場合は、「中等度」です。舌を上にあげようとしても下顎の歯よりもあがらないか、全くあげられない場合は「重度」と判定します。

「軽度」では、舌小帯が細い紐のように見えますが、舌先を上あごにつけたり、口の横につけたりすることは自由にできます。ラ行を思い切り速く言おうとすると舌がもつれる感じがありますが、日常生活での障害はほとんどみられません。

「中等度」では、舌を前に出したときに先がハート型にくびれます。舌小帯もしっかりした白い紐のように見えたり、ヒダに見えたり、膜のように見えます。舌先を上あごにつけようとしてもつけられず、口の開き方を小さくすれば、なんとか上あごにつけられるという状態です。また、口の横に舌の先をつけることができませんし、くちびるをゆっくりなめることも苦手です。発音では、ラ行がダ行に近く聞こえたり、速く言おうとすると舌がもつれることがあります。くちびるについた食べものを舌でなめることができなかったり、ソフトクリームをなめられないと話される方もいらっしゃいます。

「重度」では、舌を前に出そうとしても下くちびるぎりぎりくらいまでしか出せず、舌を上にあげることができないので、舌小帯が舌の裏に隠れて、よく見えない場合もあります。

このように、舌小帯短縮の程度が軽度の場合は、発音や摂食嚥下機能に問題があることは少ないので、あまり治療の対象となりません。中等度や重度の場合は、「哺乳が上手にできない」、「話すときに舌がもつれる」、「硬いものが上手に食べれない」といった、哺乳障害、発音障害、摂食・嚥下障害が認められることが多く、治療によって改善することが多いといえます。

2.どのような発音障害なの?

受診される方の多くは、
  「かつぜつがわるい」
  「早口ことばが言えない」
  「長い間話をすると舌が疲れる」
  「速く話をすると舌がもつれる」 のような症状を訴えられます。

舌小帯短縮症による発音障害は軽度のことがほとんどですが、舌の運動制限があるために話しづらさを感じている方が多くいらっしゃいます。

具体的な症状の特徴としては、
・ タ行音やサ行音を発音するときに、舌を上下の前歯の間に挟んで発音する歯間音化
・ ラ行音が歪む
・ ラ行音がつづく単語や速い会話だと発音が不明瞭になる
・ 口をあまり開けずに小さな声で話す 
などの発音障害が認められることがあります。

3.治療法は?

舌小帯短縮症に対する治療には、手術と機能訓練があります。舌小帯短縮の程度が軽度の場合は、舌を上手に動かすトレーニング(機能訓練)を行うだけで症状が軽減される場合もあります。トレーニングだけでは舌の動きを改善するのが難しいと判断された場合には、舌小帯のヒダを切る手術(舌小帯伸展術)を行います。術後は、瘢痕収縮の防止や、動きやすくなった舌を上手に使いこなせるようにするために、機能訓練を行います。

手術前
手術前

手術後
手術後

4.治療に関するQ&A

手術は何歳くらいからできるの?
哺乳障害がある場合などでは新生児から行うこともあります。
舌小帯の短縮の程度や、機能障害の程度により手術の時期を決定します。
手術をするのに入院は必要なの?
通常は外来で処置を行いますが、局所麻酔での処置が難しい場合には入院が必要になることもあります。
手術の時には全身麻酔をするの?
通常は舌に局所麻酔をするのみです。ただし、低年齢のため局所麻酔時に動いてしまう場合には全身麻酔による手術を検討することもあります。また新生児では、麻酔をせずに舌小帯を切る処置のみを行う(糸で縫う処置を行わない)場合もあります。患者さんの状態に応じて、適切な方法を決定します。
手術中や術後は、痛みがあるの?
局所麻酔時に多少痛みますが、術中の痛みはありません。麻酔が切れると痛みが出ることもありますが、手術の次の日には痛みが引くことがほとんどです。痛み止めを処方いたしますのでご安心下さい。
手術した日はご飯を食べることができるの?
痛みの状態にもよりますが、麻酔がきれれば、食事をしていただくことは可能です。やわらかめのものを召し上がっていただくとよいかと思います。
手術は自費ですか?保険はききますか?
手術に関しては保険が適応されます。手術前後の舌の機能訓練は自費となります。
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手術の後も通院が必要なの?
手術の翌日の消毒と、約7日後の抜糸のために来院していただきます。このほかに術後の機能訓練が必要な場合には、通院をしていただく必要があります。
手術をするだけで、発音が上手になるの?
手術を行うことで舌の運動範囲は広くなりますが、発音障害は必ずしも改善するわけではありません。これはこれまで舌小帯短縮があり、舌が動きにくい状態にあったために、舌の筋力が弱かったり正しい発音をするのに必要な舌の動きを経験してこなかったことによるものです。このような場合には、手術後に舌の機能訓練を行う必要があります。
舌の機能訓練はどのくらい行うの?
手術後の抜糸をした後くらいから、舌を動かす訓練を行います。舌運動の状態や、発音障害の程度にもよりますが、だいたい1ヶ月に1~2回、術後3ヶ月間ぐらいトレーニングをします。

口腔リハビリテーション科では、舌小帯短縮症の診断・手術を歯科医師が、舌の機能訓練を言語聴覚士がそれぞれ担当しています。舌小帯短縮症について心配なことがありましたら、ぜひご相談ください。

言語聴覚士 武井良子